コラム
COLUMNアポクリン汗腺とは何か? 徹底解説
汗腺にはエクリン汗腺とアポクリン汗腺という2つの種類がある事をご存じでしょうか?
アポクリン汗腺はワキガなどの体臭や耳垢が溜まりやすくなるなどの原因となるもので、その働きを知る事で悩みの解消に繋がるかもしれません。
今回はアポクリン汗腺について、詳しく解説を行います。
アポクリン汗腺とエクリン汗腺
私たちは皮膚に2つの汗腺をもっていて、それがアポクリン汗腺と呼ばれるものとエクリン汗腺とよばれるものです。
これら二つの汗腺はどちらも細い管が皮膚表面から奥の方に向かって伸び、根本でコイルのように巻かれた形状となっています。
一般的に「汗」というと水滴のようなものを想像するかと思いますが、これはエクリン汗腺から分泌されたもので、エクリン汗腺は体温の上昇などによって活発になり、大部分が水分で構成された汗を分泌します。
この汗は蒸発する際に気化熱によって体温を下げる役割をもっていて、急な体温の上昇を防ぐ事で体の機能を維持する事を目的としています。
また、エクリン汗腺からの汗は緊張した際などにも分泌が促進され、これは動物が強力な外的などに襲われるといった強いストレスがかかった際に、汗による滑り止め作用でその場から逃げやすくするためなどと言われています。
一方で、アポクリン汗腺から分泌される汗は水分ではなくタンパク質や脂質が多く含まれたもので、主に性ホルモンの働きなどによって分泌が促進されるものです。
水分が少ないため粘度が高く、触るとねばつくような感触のものなので、通常の汗をイメージすると全く違ったものになっています。
アポクリン汗腺からの汗は性ホルモンの働きによって分泌が促進される事などから「フェロモン」の働きを持っていたと考えられており、体臭を作るための汗とも言われています。
身体的な機能としての重要性はないため、アポクリン汗腺は除去してしまっても特にマイナスとなる事は無いと考えられています。
フェロモンの働きはあるのか?
フェロモンとは、嗅覚などに働きかける特定の成分によって、生物の特定の行動を呼び起こす成分です。
動物や昆虫の一種ではこのフェロモンによって周囲との意思疎通をはかったり、パートナーを見つけたりするといった働きがあります。
アポクリン汗腺の働きはフェロモンを作り出すものと考えられますが、実は現代人においてはこの働きはほぼ影響が無いものとなっています。
なぜなら、人は進化の過程で少なくともアポクリン汗腺から分泌された成分をフェロモンとして感じ取る能力はなくなっているため、ただの体臭としてしか感じ取られないからです。
フェロモンを感じ取る能力は人だけではなく類人猿など哺乳類の一部などでも失われており、進化の過程でコミュニケーションのとりかたが多様化していく中で、フェロモンという嗅覚分野での働きが不要になった事が考えられます。
アポクリン汗腺からの汗が体臭となる流れ
アポクリン汗腺からの汗は体臭の原因になるとご紹介しましたが、実は汗そのものが強いニオイを発しているというわけではありません。
ニオイの原因となるのは汗が皮膚にいる常在菌などによって分解されるためで、タンパク質や脂質の多いアポクリン汗腺からの汗は、様々な菌類の栄養となって分解されます。
この時、菌は栄養として取り込んだアポクリン汗腺を分解して別の物として排出するのですが、この排出されたものが体臭の原因となります。
アポクリン汗腺が原因で生じるにおい
アポクリン汗腺から分泌された汗が菌によって分解されると、下記のようなニオイを生じます。
- 鉛筆のようなニオイ(鉛のようなニオイ)
- スパイスのようなにおい(クミンのようなにおい)
- 生乾きのぞうきんのようなニオイ
においの種類は人によって異なり、その人の食事習慣や体質、皮膚にいる菌の種類などによって千差万別です。
アポクリン汗腺とワキガ
アポクリン汗腺の量が多く、働きが活発な場合は上記のような体臭を発しやすく、日本ではこの体質が「わきが(腋臭症)」と表現されています。
アポクリン汗腺の数や活動の度合いは遺伝的な要因などによって人それぞれ異なっていて、日本人は比較的アポクリン汗腺の働きが活発な「わきが体質」の割合が少なく、全体の1割程度といわれています。
一方で、海外ではむしろアポクリン汗腺が活発な「わきが体質」の割合が高く、地域や人種によっては100%全員がわきが体質となっているケースもあります。
例えば東南アジアなどの人物ではスパイシーな体臭の方も多くいますが、これはスパイス料理を食べているからではなく、遺伝的な要因でそういった体臭になっている可能性が高いと考えられます。
わきが体質は「優性遺伝」
優性遺伝とは、両親から半分ずつ遺伝を受け取った際に、より強く発現しやすい性質の遺伝の事を指します。
例えば血液型ではAB型が優性遺伝のため、AB型とO型の両親から生まれた子供はA型またはB型となり、O型が生まれる事はありません。しかし、実は遺伝的には血液型が「AO型」または「BO型」となっており、O型の遺伝は持っていても優性ではないため、表に出てこないという事になります。
このように、わきがの遺伝は優性遺伝であるため、両親のどちらかがワキガの遺伝を持っていると、子どもには少なくとも50%の確立で遺伝される事となります。
アポクリン汗腺は体の限られた場所にしか存在しない
アポクリン汗腺は、体の特定の部位に集中して存在しています。
その部位は「耳の中(外耳道)」「腋窩(わき)」「鼻翼」「乳輪」「外陰部」で、これがアポクリン汗腺が活発な場合に「わきが」となる理由です。
ワキや乳輪あたりのアポクリン汗腺が活発な場合、この周囲から強い体臭を発する事となるため「わきの辺りがにおう」という事になります。
なお、外陰部のアポクリン汗腺が活発な場合は「すそわきが」と呼ばれる状態になる事もあります。
一方でエクリン汗腺はほぼ全身に存在していますが、耳の中や唇などには存在しておらず、この部分で水分の多い汗をかく事はありません。
ワキガ体質の判断が「耳垢」で出来る理由
アポクリン汗腺が活発な「わきが体質」かどうかは、耳垢が湿っているかどうかである程度判断する事ができます。
耳垢が乾燥しているタイプであればワキガ体質である可能性は低く、粘り気があったりネチョネチョしているような湿った耳垢であればワキガ体質の可能性が高くなるでしょう。
これは、アポクリン汗腺が耳の穴(外耳道)に存在していて、逆にエクリン汗腺は耳の中の方にはないため、耳垢が湿っているという事はアポクリン汗腺が活発であると判断できるためです。
ちなみに、耳の中にあるアポクリン汗腺は「耳垢腺」とよばれ、アポクリン汗腺から分泌された汗とホコリやはがれた耳の中の皮膚などが混ざる事で耳垢が作られます。
耳垢は通常であれば毛の流れなどによって自然と外に押し出されていくため、耳掃除などは特に行わなくても耳の中は清潔に保たれています。
しかし、アポクリン汗腺の働きが活発で粘り気のある汗が多量に分泌されるタイプの方のケースでは適切に耳の外へ排泄されないまま固まってしまい、耳に栓をするような形で塞いでしまうという事もあります。
日本ではこういったケースはかなり少ないですが、海外ではアポクリン汗腺の働きが活発な方が多いため、耳垢がワックスのように固まって耳を塞いでしまうというような状態が時折みられます。
アポクリン汗腺の働きを抑える方法
ワキガやすそわきがといった症状を改善するためには、汗の分泌を抑えるか、汗によるにおいを防ぐ事。または汗の分泌そのものを止める必要があります。
セルフケアで行える部分と治療として行える内容に分けてご紹介します。
セルフケアで行える対策
セルフケアで体臭を抑える場合、アポクリン汗腺からタンパク質や脂質の多い汗が分泌される事を防ぐためのケアや、汗がにおいになる事を防ぐケアとなります。
具体的には、食事の改善や制汗剤などの利用です。
食事の改善
体臭のケアとして何よりも重要となるのが食事の改善です。
日本人はそもそも殆ど体臭が無かったといわれていますが、これは食文化の影響も大きく、現代は肉など脂質の多い食事を多くとる欧米型の食生活となっている事から体臭も生じやすくなっているといえます。
体臭の原因はアポクリン汗腺から分泌される汗に含まれるタンパク質や脂質なので、体臭をケアするためにはなるべく過剰な栄養、特に脂質などをとらないようにする事が大切です。
肉食であったり、揚げ物など油を多く使用した食事は体臭の原因となりやすいので、脂質が少な目な食事をとるようにしたり、余分な脂質をからめとってくれる食物繊維などをしっかり食べるようにしましょう。
制汗剤やデオドラントの適切な利用
制汗剤やデオドラント商品には殺菌成分が配合されており、皮膚の殺菌を行う事でニオイの元となる成分が作られる事を抑止します。
わきがのニオイも細菌が汗を分解する事によって生じるものですので、適度に使用する事でニオイの発生そのものを減らす事ができます。
ただし、一方で皮膚の常在菌バランスというのは繊細であり、殺菌しすぎて菌のバランスが悪くなると肌が荒れるなどのトラブルとなる可能性もありますので、痒みなどなにか症状を感じたら専門の皮膚科で相談しましょう。
制汗剤については、医療機関で販売されているものもあり、こちらは一回塗ると数日間効果が持続するようなものもあります。
根本的な改善を行う治療
わきがはアポクリン汗腺を除去する治療で根本的な解消が可能です。
治療法には様々なものがありますので、それぞれをご紹介します。
剪除法(皮弁法)
剪除法はわきが治療の基本となる治療で、一回の手術で確実に解消したいのであればこの方法が特に有効です。
剪除法はまず、ワキのシワにそって皮膚を切開し、皮膚を裏返して直接アポクリン汗腺を医師が目視でチェックしながら、一つ一つ除去していきます。
すべての汗腺を除去したら元に戻して縫合し、一定期間圧迫して固定をする事で皮膚組織を再度癒着させます。
汗腺を直接確認して除去していくため効果が確実で、一度汗腺を除去してしまえばアポクリン汗腺が増える事はありませんので、基本的には再発しません。(成人前の子どもが手術を受けた場合などでは再発の可能性もあります) 皮膚の切開を行うためダウンタイムが比較的長い点が難点ですが、確実に悩みを解消したいのであれば剪除法での治療がおすすめです。
ミラドライ
マイクロ波という水分に反応して高温になる電磁波を照射する事で汗腺を破壊する治療法です。
水分の多い汗を分泌するエクリン汗腺を破壊する効果はとても高く、多汗症の治療には非常に効果的なのですが、アポクリン汗腺については効果が完全とはいえないため、わきが治療の効果は不十分となってしまう可能性もあります。
剪除法と比べると術後の固定などが不要なためダウンタイムが楽というメリットはありますが、コスト面も比較的高く、ワキガを確実に解消できない可能性がある点がデメリットです。
ビューホット
RFを照射する針を差し込み、熱によって汗腺を破壊する治療法です。
汗腺に近い箇所から熱を生じるため、照射を行った範囲についてはアポクリン汗腺の減少が期待できますが、一方で直接汗腺を確認しながらの施術ではないため、やはり汗腺を破壊しきれず残ってしまう可能性はあります。
また、術後の固定は不要であるものの、針を刺した後が長期間残りやすいので見た目が気になるという事も多い治療となっています。
アポクリン汗腺、ワキガやすそわきがにお悩みの方はまず一度ご相談ください
アポクリン汗腺が活発で、わきがやすそわきがといった症状にお悩みの方は、まずはどのような治療法が最適なのかを知る事が悩みを早期に解消するためのポイントです。
城本クリニックではワキガ治療に精通したドクターが、患者様一人ひとりのお悩みを直接伺って、生活習慣などを踏まえながら最適な治療計画をご提案しておりますので、まずは一度お気軽にご相談ください。
本コラムの監修医師
1978/04:富山医科薬科大学医学部医学科入学
1984/03:富山医科薬科大学医学部医学科卒業
1984/06:大阪市立大学医学部付属病院研修医
1986/04:大阪市立大学大学院医学研究科外科系外科学専攻
1990/03:大阪市立大学大学院医学研究科外科系外科学修了
1990/04:田辺中央病院医長
1991/04:城本クリニック
医学博士 / 日本美容外科学会専門医
第105回日本美容外科学会 会長
城本クリニック総院長 森上和樹