コラム
COLUMN耳垢が湿ってると「わきが」というのは本当? そうでない場合もある?
耳垢が湿ってるかどうかで「わきが」の体質かどうかを判断できると聞いたことはないでしょうか?
においは長時間嗅いでいると慣れてしまうため、自分自身の体臭を正確に判断する事は難しく、セルフチェック方法として耳垢の状態を確認して気になったという方も多いかと思います。
実際に耳垢が湿っていればわきがと判断できるのか、湿っていなくてもわきがであるケースや、湿っていてもわきがでは無いケースがどの程度あるのかなどについて詳しく解説します。
耳垢が湿っているとわきがの可能性が高いが、そうではないケースもある
耳垢が湿ってるからワキガなのでは? という疑問について、まず簡単に結論をいえば、耳垢が湿っている方の場合は遺伝的にわきがの要素を強くもっている可能性が高いといえます。
しかし、100%これでわきがかどうかの判断が出来るかといえばそうではなく、耳垢が湿っていても20%ほどの方はわきがではなかったという報告もありますので、絶対的な判断基準ではありません。
わきが体質だと耳垢が湿る理由
そもそもなぜ耳垢が湿っているとワキガの可能性が高くなるかというと、これはアポクリン汗腺という汗腺の分布に理由があります。
アポクリン汗腺はわきがの原因となる汗を分泌する汗腺で、体温が上がった時に分泌される水分の多い汗ではなく、タンパク質や脂質の多い粘度の高い汗を分泌する場所。
水分の多い汗は「エクリン汗腺」という汗腺から分泌されますが、エクリン汗腺からの汗は主に体温調節などを目的として体温が上昇した際などに分泌される一方で、アポクリン汗腺からの汗は性ホルモンの影響などによって分泌されるものなので全く性質が異なっています。
アポクリン汗腺からの汗はタンパク質や脂質が多く含まれるため、これが皮膚にいる細菌によって分解される事でにおいの原因となる物質が生成され、わきがの状態を作ります。
そして、このアポクリン汗腺は体の中の特定の部位に集中して存在している事が特徴で、主に耳の周囲やワキ、そして生殖器周囲といった箇所に存在しています。
また、一方で水分の多い汗を分泌するエクリン汗腺は体中のあらゆる箇所に存在していますが、爪の内側や唇、そして耳の中などには存在していません。
耳垢は外耳道という耳の穴の外側1㎝の部分で作られる事が分かっていますが、アポクリン汗腺も同じ場所に存在している事から、耳垢が湿っているという事は「アポクリン汗腺が活発に働いている」という事であり、アポクリン汗腺の働きが活発という事はワキなどでも同様にアポクリン汗腺からの汗が多く分泌される可能性が高くなるため、わきがの体質である可能性が高いという事になります。
しかし、アポクリン汗腺の分布は人によっても異なるため、耳には汗腺が沢山あってもワキの汗腺はそこまで多くなかったり、活発で無かったりするケースもありますし、ワキの汗腺はおちついていても生殖器周辺の汗腺が活発で「すそわきが」と呼ばれる症状になる可能性もあります。
そのため、耳垢が湿っていれば必ずわきが体質であるとはいえず、一つのチェックポイントとして考えた方が良いでしょう。
アポクリン汗腺と無関係に湿っているケースも
耳垢が湿っている原因はアポクリン汗腺の汗が原因である事が多いですが、例えば入浴後などに耳垢をとった場合は耳に侵入した水分によって湿っている可能性が高くなるなど、必ずしも汗が原因といえるわけではありません。
耳に水が入る事で湿ってしまったというケースは一時的なものですが、過度に耳掃除などを行って耳の中が傷ついたりしてしまい外耳炎や中耳炎になってしまうと、耳の中で発生した傷や炎症を回復させるために滲出液が分泌されてくるため、これが耳垢を湿らせているという可能性もあります。
そもそも耳垢とは何か
耳の構造は、外側に張り出している「耳介(いわゆる耳と呼ばれる部分)」から、鼓膜(こまく)まで繋がる「外耳道」と呼ばれる穴の部分を「外耳」といい、鼓膜や耳小骨の部分を「中耳」、そしてそれより内側を「内耳」という形になっています。
外耳には皮脂を分泌する皮脂腺や「耳垢腺」と呼ばれる部分がありますが、この耳垢腺というものはアポクリン汗腺と組織的に同一のものです。
耳垢は耳の外から侵入してきたホコリやゴミと、耳の中の垢(表皮)、そして皮脂や耳垢腺から分泌された汗がまじりあう事で作られるのですが、耳垢腺(=アポクリン汗腺)の働きが強ければベタベタとした粘着性の強い成分の割合が多くなるため、耳垢も湿った状態になります。
耳垢によって耳の中が清潔に保たれる
耳の中には細かい毛が沢山生えていて、この毛が自然と耳垢を外に押し出していく構造になっています。
耳垢は外部から侵入してきたホコリやゴミ、そして古くなった耳の中の角質(垢)が混ざって出来るものですので、耳垢という形でこれを自然に外に排出していく事で、耳の中を綺麗に保ち続けるという作用が得られます。
よく綿棒などで耳掃除を行う方がいますが、耳垢は放置しておけば自然と排出されていきますので、自分自身で掃除を行う必要は基本的にはありません。
ただし、アポクリン汗腺の働きが活発で粘着性の強い耳垢の方の場合などでは、適切に排出する事が出来ずに溜まり続けて耳を塞いでしまうようなケースもありますので、耳垢が気になる方は一度耳鼻科などで診察を受けてみると良いでしょう。
耳垢腺からの汗は耳を保護する役割も
耳垢腺から分泌される汗は、耳の内側の皮膚を脂質で覆って潤いを保つ事による保護機能や、耳の中を弱酸性に保つ事で雑菌の繁殖を防ぐといった感染防止の働きも持っています。
逆に言えば、過度に耳掃除をして耳の中が傷ついてしまったり、ストレスなどによって免疫力が低下していたり、耳の中が乾燥した状態になったりすると保護機能を強化するために汗腺からの汗が盛んに分泌されるようになるため、耳垢がねばねばしやすくなるなどするといえます。
乾性耳垢と湿性耳垢
耳垢は乾燥しているか湿っているかで2種類に分ける事ができます。
乾性耳垢はアポクリン汗腺の働きが活発ではないために乾燥した耳垢のタイプで、細かい粉末状の耳垢や、少し大きめの垢のような形状のものなどがあります。
湿性耳垢は汗腺の働きが活発でねばねばしたタイプの湿った耳垢で、乾燥した耳垢と比べてまとまりやすく、しっとりと重みがでやすいのが一つの特徴です。
人によってはキャラメル状のようになっているより水分量の多いタイプの場合もあり、湿り気が強い場合はそれだけアポクリン汗腺の働きが活発という事でもあるため、わきがである場合にはにおいも強くなるケースが多くなります。
耳垢以外でわきがかどうかをセルフチェックするポイント
耳垢が湿っているかどうかだけではなく、自分自身がわきがかどうかを判断するポイントとしては下記のような点があります。
両親がわきがであるかどうか
わきがはアポクリン汗腺の量や働きの度合いといった体質に依存する症状であり、遺伝的な要素が大きいものです。
そのため、両親がわきがかどうかという点は大きな判断要素で、わきがの体質は優性遺伝であるため両親のどちらかがわきがの場合は50%以上、両方がわきがの場合は75%以上の確立で遺伝する事となります。
一方で、両親がどちらもわきがでは無い場合は遺伝要素がないため、子どもがわきがになる事はないでしょう。
毛の量が多い
アポクリン汗腺は毛穴と接続される形で存在している汗腺であるため、毛の量が多いという事はアポクリン汗腺の量も多い可能性が高くなります。
特に脇毛の量が多い場合はアポクリン汗腺が多く、わきがの可能性も高くなるでしょう。
尚、脇毛を脱毛するとワキガのにおいを抑えられる事がありますが、これは汗によるにおいの拡散が防止される事などが大きな理由でアポクリン汗腺が破壊されるものではなく、脱毛でわきがが治るとういものではありません。
服のワキ部分が黄色くなるかどうか
ワキは密閉された場所のため汗もかきやすく蒸れやすい箇所ですが、アポクリン汗腺の働きが活発ではなくエクリン汗腺からの水分が多い汗が多い方であれば、ワキの部分に汗染みが出来る事はあってもあまり黄色く変色するような事はありません。
一方でアポクリン汗腺の働きが強い方の場合はタンパク質や脂質による汚れが付着する事で、ワキ部分が黄色く変色してしまう可能性が高くなりますので、ワキ部分がすぐに黄色く変色するという方はワキガ体質を疑っても良いでしょう。
なお、変色している状態はタンパク質などの汚れが残っている状態のため、そのまま着用すると余計に雑菌が繁殖しやすくなり、においが強くなってしまう可能性があります。
漂白剤などを使用して付着した汚れを取り除くなどをしっかりと行う事でにおいを抑える事ができます。
ガーゼやティッシュを使ったテストをしてみる
わきがのレベルをチェックする場合、病院ではガーゼテストといって清潔なガーゼを脇に挟み、一定時間が経過した後で医師が別室にてそのにおいをチェックするという診察が行われますが、セルフチェックとして行う事も可能です。
清潔なガーゼやティッシュなどをワキに5分程度挟み、一度部屋を移動するなどでにおいに対する感覚をリセットしてからにおいをチェックしてみましょう。
わきがのにおいは「鉛筆」「スパイス」「硫黄」など様々なにおいに例えられますが、酸っぱいにおいや鼻にツンとくるようなにおいを感じたらワキガの可能性が高いといえます。
わきがの治療方法
わきがは治療を行う事で解消する事ができるお悩みです。
定期的に着替える事や制汗剤などでの対策も有効ではありますが、セルフケアでの対策は頻繁に行わなければならない事も多く、強いストレスがかかってしまう可能性も高いといえるでしょう。
一方で手術による対策は一時的にかかる身体的、経済的な負担はセルフケアと比べれば大きいものの、その後はにおいを意識する必要も無くストレスのない生活を送る事ができるようになります。
コスト面についていえば医療ローンなどを利用する事でセルフケアを続けるくらいの感覚で治療を受けられるケースもありますので、お悩みの方は是非一度専門の医療機関にご相談してみてはいかがでしょうか。
わきがの主な治療方法をご紹介します。
手術による治療法(剪除法)
わきが治療の代表的な方法が剪除法という手術です。
剪除法では、ワキを切開して皮膚を裏返し、直接アポクリン汗腺を確認しながら全て除去を行った上で切開場所を縫合するという形で手術を行います。
皮膚を切開して一度剥離しているため、術後1週間程度はワキを完全に固定し、傷が綺麗にくっつくようにケアする必要があります。
傷跡がくっついた頃に医師が状態をチェックし、しっかりと癒着されていれば固定具をはずして抜糸が行われます。
抜糸後もむくみ、腫れはしばらく残りますが、1ヶ月程度で殆どがおさまりダウンタイムが修了となります。
尚、切開と縫合はワキのシワにあわせた形で行われ、1~2年で殆ど目立たない状態となります。
アポクリン汗腺を目視しながら除去するため、わきがを解消する治療としては最も確実性が高く、一度の治療でしっかりと効果が期待できる方法です。
術後の固定などのため一定期間は不便な状態となりますが、その期間を安静にすごしてダウンタイムが過ぎればわきがによる悩みから解放されます。
ボトックス注射
剪除法のように手術を行うのは怖いという方や、そこまでにおいが強いわけではないので汗をかきやすい夏など、においが気になりやすい時期だけ対策をしたいという方に適しているのがボトックス注射です。
ボトックス注射はボツリヌストキシンという神経の働きを阻害する薬剤の注射による治療で、これを注射する事で汗腺の働きを弱め、汗の分泌をおさえてわきがの症状を軽減する事ができます。
ボツリヌストキシン製剤は表情筋の抑制による小じわ改善などにもよく使用される注射で、過去多くの症例がある治療ですので非常に安全であり、注射だけで完了するため非常に手軽に治療を受ける事ができます。
注射後は3か月から半年程度効果が持続するため、例えば夏直前に注射をうてば秋ごろまでの期間は汗腺の働きを抑える事ができます。
永続的な効果ではありませんが、体への負担も少なく、カウンセリング当日に治療を受ける事が可能なケースが多いなど手軽な治療であるため、まずは簡単な治療から試してみたいという方にも適しています。
パースピレックス(医療用制汗剤)
パースピレックスは医療用の制汗剤で、塗ると汗腺の中に入り込んで栓となり、汗の分泌を物理的に阻害する効果をもちます。
制汗剤を使用したセルフケアにはなりますが、一度塗れば3~5日間は効果が持続するためストレス無くケアし続けやすいという点が大きなメリットといえます。
わき汗を止めるだけではなく、手足の多汗症を改善するタイプのものもあります。
まずはお気軽に一度ご相談ください
わきがの対策は、まず第一に症状を正確に把握し、症状に併せた適切なケアを行う事が大切です。
耳垢の湿り具合などによるセルフチェックだけでは正確な判断は難しいものですので、まずは一度専門のクリニックまでご相談ください。
城本クリニックではわきがのケアや治療に専門的な知識を持った医師がしっかりと診断を行い、最適な治療法をご案内させていただいております。
もちろんご相談は無料ですので、まずは一度お気軽に起こしいただければ幸いです。
本コラムの監修医師
1978/04:富山医科薬科大学医学部医学科入学
1984/03:富山医科薬科大学医学部医学科卒業
1984/06:大阪市立大学医学部付属病院研修医
1986/04:大阪市立大学大学院医学研究科外科系外科学専攻
1990/03:大阪市立大学大学院医学研究科外科系外科学修了
1990/04:田辺中央病院医長
1991/04:城本クリニック
医学博士 / 日本美容外科学会専門医
第105回日本美容外科学会 会長
城本クリニック総院長 森上和樹